2012年05月26日

東京ドームのエアフロー


今回は、余談として、PC以外のエアフローを考えてみることにしよう。

東京ドームは、エアドーム、つまり空気を利用したドームであることで有名である。
東京ドームは、ボールが飛びやすく、ホームランが出やすいことでも話題となることがあるが、今回は、その謎解きをしてみたいと思う。

承知している人も多いと思うが、東京ドームは、ドーム内の気圧を上げている。
この目的は、高気圧の作用を利用して、ドームの天井を膨らませるためである。
気圧が高い空気は、密度が高いので、気圧が低い方へ空気が流れる。
つまり、ドーム内の気圧を上げることで、ドーム外へ向けて空気が流れることになる。
PCケースで言えば、正圧ケースなのである。
ただ、東京ドームの側面は、コンクリートになっており、頑丈で通気性がないので、空気はドーム外へ流れない。
一方、天井は、正確には分からないが、おそらく、水の分子より小さく雨は通さないが、僅かに空気を通す通気性がある膜状の素材になっており、ドーム内の気圧が高い空気が天井へ向かい、その結果、天井が膨らんでいると推測できる。
したがって、東京ドームのエアフローは、全体的に天井方向、つまり下から上へのエアフローということになるだろう。
基本的に、試合中も、この空気の流れになっているはずである。

この状態で、バッターがフライを打ち上げた場合、どうなるだろうか?
打ったボールは、下から上への空気の流れの影響を受けることになるだろう。
ボールは、下から上へと煽られて、普通の球場よりも、なかなかボールが落下して来ないことになる。
つまり、ボールの滞空時間が長くなり、その分ボールの飛距離が長くなるはずである。
したがって、普通の球場よりも、飛びやすいということになる。
言い方を変えると、飛びやすいというよりは、ボールが落下しにくく滞空時間が長い球場ということになるだろう。
この傾向は、ボールが高く上がる程、顕著になると考えられる。
天井付近に近くなる程、ドーム外との気圧差の影響で、空気の流れは増しており、さらにドーム下方から上昇した空気の圧力や風量の影響も受けるので、ボールは、より落下しにくくなるだろう。
したがって、ライナー性のボールよりも高いフライの方が、気圧差による空気の流れの影響を受けやすく、落下しにくく滞空時間が長くなり、そしてその結果、飛距離が伸びるという理屈になると考えられる。
これが、東京ドームでボールが飛びやすい理由であり、気圧差を利用して天井を膨らませているので、必然的にそうなるだろう。

この考えを裏付けるように、野球選手も実感として分かっているようである。



この動画の2:30過ぎのところで、「ボールが落ちてこない」という指摘があったが、これがまさに東京ドーム特有の空気の流れ、エアフローということである。
理屈からも選手の実体験からも納得できるはずだ。

ただ、ドーム内の気圧が高いので、空気抵抗が高く、ボールが飛びにくくなるのではないか、と思う人も多いだろう。
確かに気圧が高ければ、空気抵抗が増し、ボールの飛距離が伸びにくくなる。
例えば、高地の球場では、気圧が低く、空気抵抗が少ないので、飛距離は伸びやすいのは事実である。
しかし、東京ドームの気圧は、ドーム外と比べて、僅か0.3%しか気圧を上げていない。
これは、海抜0mと30mの気圧差であり、ほとんど空気抵抗に差はなく、ボールの飛距離への影響は誤差レベルだと考えられる。
一方、高地、例えば、海抜2000mでは、気圧が20%低いので、明らかに空気抵抗が低く、ボールが飛びやすいので、空気抵抗の影響は全く異なる。
東京ドームの場合は、むしろ、誤差レベルの空気抵抗よりも、気圧差によって生じる下から上への空気の流れの方が、飛距離に与える影響が大きいと判断できそうだ。

また、飛距離が伸びる理由は、ドーム内の空調によるものだという意見がある。
これについては、かなり微妙ではないかと思われる。
確かに、空調が強くなれば、天井へ向かう空気の流れが強くなり、風量も増すであろう。
しかし、空調の強さで、どのくらい風の強さや風量が変化するか不明であり、東京ドーム程の広い空間でボールの飛距離に影響する程の空気の流れを空調の強弱で左右できるかとなると、なんとも言い難い。
もちろん、空調が強い方が、飛距離が増すであろうが、その影響は、おそらく極僅かであり、むしろ影響を与えるのは、天井への空気の流れによるところが大きいのではないかと思う。

なお、ホームランが出やすいのは、空気の流れの影響だけではないことも付け加えておこう。
東京ドームは、両翼、センターまでの距離はあるが、右中間、左中間の距離は短い。
つまり、弧の部分の膨らみがなく、右中間、左中間への打球は、スタンドに入りやすいのだ。
したがって、右中間、左中間への高い打球は、天井への空気の流れも手伝って、ホームランになりやすい。

以上のことから、東京ドームは、ボールが飛びやすく、しかも右中間、左中間までの距離が短いことから、ホームランが出やすいということになるのだろう。
はっきり言って、東京ドームは、野球をする空間としては最悪であり、おそらく日本国内でも、山地で明らかに気圧が低い場所を除けば、最も野球に適していない空間、悪い言い方をすれば、欠陥球場ということになるだろう。
では、何故このような球場が出来たのかと言えば、おそらく、建設費と技術的難易度の問題なのだろう。
天井をコンクリートにした場合、通気性がある膜で天井を膨らませるより、コンクリートのコスト及び建設期間が延びることにより、建設費は増大するだろう。
また、ドーム球場であるので、柱なしで広い空間をコンクリートの天井で覆うのは、技術的にも難しいと想像できる。
東京ドームは、日本最初のドーム球場であったので、コストや技術的難易度の問題から、低コストで簡単な方法である気圧差を利用して天井を膨らませる方法を採用したと考えられる。
これにより、建設自体は、比較的容易となっただろうが、野球場としては最も不適切な空間という代償を払うことになっている。
では、建設当時、気圧差による空気の流れやボールの飛距離への影響を検討しなかったのかということになるが、おそらく、承知していたと思われる。
私のような空気力学の素人ですら気がつくことを開発者が気付かないということはないだろうし、多額の建設費を投じた施設で検討しなかったということは考えられない。
では、どうして、欠陥をそのままにしたのかということだが、建設費や技術的難易度以外に、興行的な面と記録的な面を配慮してのことだと考えられる。
東京ドームは、完成当初、国内の球場では、甲子園球場と並んで最も広い球場であった。
確かに右中間、左中間までの距離は短いが、両翼、センターまでの距離、フェンスの高さから考えると、当時の球場の中ではかなり広く、気圧差の影響がなければ、ホームランが出にくい球場となったであろう。
もし、ホームランが出にくいということになれば、1試合のホームランが減り、球場に来た観客にとっては、つまらないものとなり、興行的には問題がある。
また、ホームランが出にくいということは、東京ドームを本拠地とする巨人にとっては、巨人の選手がホームラン王を獲得する機会が減ることになり、伝統的に王選手、長嶋選手といったホームランバッターで人気を集めた球団にとっては、マイナスになるだろう。
このような点から、当時としては広い球場であった東京ドームで他球場とのバランスをとって、ホームランが出やすくするためには、気圧差による影響は、むしろ好都合であったと想像できる。
仮にそうであったならば、よく考えられた球場ということになるが、その後、広い球場が多く出来た所為もあって、現在では、最もホームランが出やすい球場になってしまったのは、計算外であっただろう。
ただ、2011年から使用されているプロ野球の公式球は、従来のものより飛びにくくなっているので、結果的には、これでまたバランスが良くなったと考えることもできるかもしれない。

エアフローも奥深いものだが、野球場も、いろいろ考えると奥深いものである。
自作PCユーザーにとっては、巨大な煙突効果型PCケース、しかも正圧ケースの中で野球の試合が行われていると考えれば感慨深く、たまには、秋葉原に行ったついでに、東京ドームへ行ってみようかという気になるのではないだろうか?
posted by PC_Considering at 05:46| エアフロー余談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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